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変身

カフカ(1952年)「変身」(高橋義孝訳)新潮文庫


 いまさらながら名作を読んでみる。
 予想以上に、気持ち悪い。

 脚の多い昆虫は気持ち悪いが、虫の詳細な描写がなくても気持ち悪い。どういう気持ち悪さかというと、身動きできない満員列車に乗っているときにふと、自分も周囲の人間も醜く感じる、その感じ。周囲の扱いが、そのものの価値を貶めてしまうことがある。虫として扱われる主人公が、卑しい虫に思えてくる。

 さらに、家族関係が気持ち悪い。家族関係は複雑だ。主人公は、自分が我慢をして両親と妹を養うしかない、何とかして妹は音楽学校に行かせてやろう、そう思って嫌な仕事を続けていた。しかし彼が虫になると、父親は働きだし、一番の理解者の母親は目をそらし、妹が虫の運命を左右していく。いっそ虫を捨てることで、三人は幸せになれると感じる。その三人は、主人公が人間だった頃よりも、むしろ幸せなのではないか。


 たとえば彼が嫌な仕事を辞めてもっと働きやすい職場に移っていたら。たとえば主人公が給与をあまり渡さず、そのために父親が就職していたら。たとえば妹に働きながら勉強する道を誰かが教えていたら。何か違っただろうか?虫になった主人公に、皆が親身になる可能性もあっただろうか?

 こんな気持ち悪い小説、有名でなければ、かつ、多和田葉子が新訳してなければ、決して読まない。と思う一方で、色々と考えさせられたのも事実。
 さて、多和田葉子の新訳を読むのが楽しみだ。




 この本は、やはり何と言っても有名な冒頭の一文に強烈な印象を受ける。


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by saint05no44 | 2017-01-15 23:00 | 読書日記

読書量が減ったことへの危機感から始める読書日記。


by アガサ